2021年12月05日
ドイツ連邦軍のキャリアと階級
ドイツ連邦軍がかねてから検討していた新しい階級、「Korporal」と「Stabskorporal」
この階級への昇進者が表れたことが私の頭の中で話題になっています。
国防省のアカウントから。Korporalがこれまで兵卒の最上位であったOberstabsgefreiterの上位に位置していることが分かります。
ツイッターの担当者もまだ慣れていないのでしょうか、「Koporal」と誤字が。
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Korporal=コーポラル(Corporal:英)といえば日本語では「伍長」と訳されることが多く、下士官のうち一番下の階級ととらえられるのが一般的なようです。
NATO基準で見てみるとコーポラルはOR-3もしくはOR-4に相当するそうですが、ドイツ連邦軍においてはすでにこの層を「兵卒」であるところの「Obergefreiter」から「Oberstabsgefriter」までの4階級が占めています。
この兵卒のカテゴリにさらに階級を上乗せしようというのがこの度の「Korporal」とその上位の「Stabskorporal」なのです。
したがって、ドイツ連邦軍におけるコーポラル(Korporal)は下士官に分類されるものではなく、兵卒のさらなる出世のための階級であると理解することができます。
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さて、この分かるようで分かりにくい、ドイツ連邦軍の階級とキャリアについて、せっかくですので2015年版「Reibert」(諸兵必携)の「Laufbahnen und Laufbahnausbildung」の項目から読み取って理解を試みてみましょう。
連邦軍のキャリアは階級ごとのカテゴリに応じて4つに区分されています。
(1)兵卒(MANNSCHAFTEN)のキャリア
兵卒のキャリアコースは資格に関係なく、最下の階級から軍務に服したい志願者を対象としています。
標準的な任期は4年間で、入隊条件は義務教育を修了することでです(義務教育は通常15歳までですが入隊時は17歳である必要があります)。
原則として兵卒は管理職ではありません(部隊を率いることは稀)。
適性と必要性に応じて運転手、無線手、あるいは戦車や砲、工兵機器のオペレーターとして部隊に貢献します。
※兵役があった時代、徴集兵は兵卒として入隊していました。
※兵役があった時代も志願して兵卒から軍のキャリアを開始することができました(自主兵役=FWD)。現在でも任期制(SaZ)とは別に自主兵役という形で入隊することができます。
(2)下級下士官(UNTEROFFIZIERE)のキャリア
入隊条件は実科学校(Realschule)の卒業証書かそれ相当の教育レベルです。
任期は基本的に8年となります。
志願者がすでに連邦軍で通用する専門資格を持っている場合、UnteroffizierまたはStabsunteroffizierとしてキャリアを開始することが可能です。
専門資格を持たずに入隊した場合、連邦軍での勤務を通して民間職業で認められた資格を取得することができます。
(いずれの場合もいきなり実務を担うことはなく、まず候補生として基本的な軍事訓練を受ける必要があります)
下級下士官は様々な業務を担います。例えば本部職、修理要員、電子偵察要員、弾薬処理要員、空挺分隊の班長などです。
※このキャリアは正確には「一般専門職下級下士官(UNTEROFFIZIERE des Allgemeinen Fachdienstes)」と呼びます。専門技能を持つことが前提です。
※ちなみにキャリアカテゴリとしての「UNTEROFFIZIERE」と階級名としての「Unteroffizier」は紛らわしいので、この記事では前者を全大文字で、後者を小文字併用で書き分けています。
(3)軍曹(FELDWEBEL)(=上級下士官)のキャリア
軍曹のキャリアには適性と専門資格に応じて2つの形態があります。
・兵務職軍曹(FELDWEBEL des Truppendienst)
ここでいう兵務職(Truppendienst)は戦闘任務など、純粋な兵隊が担う職務のことを指します。
つまるところ兵務職軍曹は管理職(兵士の上官)として働く存在です。
部隊内で教官、教育者、部隊長としての任を担うのですが、これは若い年齢であっても大きな責任を負うことを意味します。
例えば戦車部隊では戦車とその乗組員を率いることもあれば、4両の戦車からなる戦車小隊を率いる場合もあります。
山岳部隊では10名の兵士からなる分隊を率い、軍事スキー、登山、山岳戦闘、山岳救助の教官も務めます。
入隊条件は基幹学校(Hauptschule)の卒業証書か実科学校(Realschule)の卒業証書、またはそれ相当の教育レベルです。
任期は通常12年となりますが、非任期制兵士(Berufssoldat)として働くことも希望できます。
・一般専門職軍曹(FELDWEBEL des Allgemeinen Fachdienstes)
一般専門職軍曹は高度な専門家としての責任を負います。UNTEROFFIZIEREの上位の存在です。
志願者がすでに専門訓練を受けていた場合、Unteroffizier、Stabsunteroffizier、Feldwebelからキャリアを開始することができます。
(※当然候補生として別途軍事訓練を受ける必要があります)
任期と入隊条件は兵務職軍曹と同じです。
※兵務職、一般専門職のほかに軍事専門職というカテゴリがあり医療下士官や軍楽隊下士官もいるのですが当然キャリアは異なります。
※UNTEROFFIZIEREとは「下士官」のことで、場合によってはFELDWEBELもUNTEROFIZIEREに含んで表記することもあります。ややこしいですね。
※上記のような場合は上級下士官(軍曹)を「UNTEROFFIZIERE mit portepee」、下級下士官「UNTEROFFIZIERE ohne portepee」と呼び分けたりします。ややこしいですね。
(4)士官(OFFIZIERE)のキャリア
ここで説明される士官のキャリアは正確には兵務職士官(OFFIZIERE des Truppendienst)のことです。
兵務職士官になるための入隊条件は原則的にアビトゥーア(大学進学資格)、高等専門学校(Fachhochschule)の入学資格、または同等の資格を持っていることです。
これだけでなく志願者は採用試験に合格する必要があります。
原則的に訓練中にハンブルクかミュンヘンにある連邦軍大学のどちらかで学位を取得する必要もあります。
士官候補課程では学科のほか様々な訓練を経て部隊長、教官、教育者としての職務に備えます。
士官の訓練はすべての兵科、軍種で実施され、実践的および理論的な要素を学びます。
各兵科共通の訓練に加え、兵科固有の訓練はそれぞれの訓練学校で行われ、主に任務に即した訓練が施されます。
士官の標準的な任期は13年ですが、非任期制兵士として働くことも希望できます。
※兵務職士官のほかに軍事専門職として医療士官、軍楽隊士官などもいますが当然キャリアは異なります。
いずれの場合も非任期制兵士は原則的に定年まで勤めますが、任期制兵士は満期で除隊し民間企業等に再就職します(これはどこの軍隊も同じことですが)。
徴兵期間を除き12年間任期を務めた兵士は別の公務員として転職できる制度もあるらしく、軍隊上がりの警察官という存在も珍しくないそう。
もちろん任期を最大25年まで延長することも可能です(定年は越えられませんが)。
この度の新階級導入は任期を延長したい兵卒のための、ある意味受け皿的な意図があるのだと思われます。
ここ数年で任期を延長したがる兵卒は増え続けているらしく、2015年の時点で兵卒の平均的任期は8年、今では15年以上の任期も珍しくないとのこと。
長い経験を積んだ優秀な兵卒を新しく制定した階級で切り分け、給与や年金を手厚くしようというわけですね。

4つのキャリアを簡単にまとめるとこんな感じになります(階級は下から上にかけて上位になります)。
各カテゴリの枠を超えて、例えば兵卒が下級下士官や軍曹にキャリア転向することもあります。
珍しいですが軍曹が士官を目指してキャリア転向を図ることもあるそうです。
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階級からは組織内の上限関係だけでなく役割や働き方を見てとることができます。
深く調べていくと面白い、奇妙な発見があるかもしれません。
Tschüs!!
この階級への昇進者が表れたことが私の頭の中で話題になっています。
Diese Woche wurden die ersten Korporale der #Bundeswehr befördert. Mit dem neuen Mannschaftsdienstgrad werden Soldatinnen und Soldaten der Laufbahn eine neue, attraktive Karriereperspektive angeboten. Das soll die Motivation fördern und Leistung belohnen. Wo steht der Koporal? pic.twitter.com/qCFmJlImml
— Verteidigungsministerium (@BMVg_Bundeswehr) December 3, 2021
国防省のアカウントから。Korporalがこれまで兵卒の最上位であったOberstabsgefreiterの上位に位置していることが分かります。
ツイッターの担当者もまだ慣れていないのでしょうか、「Koporal」と誤字が。
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Korporal=コーポラル(Corporal:英)といえば日本語では「伍長」と訳されることが多く、下士官のうち一番下の階級ととらえられるのが一般的なようです。
NATO基準で見てみるとコーポラルはOR-3もしくはOR-4に相当するそうですが、ドイツ連邦軍においてはすでにこの層を「兵卒」であるところの「Obergefreiter」から「Oberstabsgefriter」までの4階級が占めています。
この兵卒のカテゴリにさらに階級を上乗せしようというのがこの度の「Korporal」とその上位の「Stabskorporal」なのです。
したがって、ドイツ連邦軍におけるコーポラル(Korporal)は下士官に分類されるものではなく、兵卒のさらなる出世のための階級であると理解することができます。
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さて、この分かるようで分かりにくい、ドイツ連邦軍の階級とキャリアについて、せっかくですので2015年版「Reibert」(諸兵必携)の「Laufbahnen und Laufbahnausbildung」の項目から読み取って理解を試みてみましょう。
連邦軍のキャリアは階級ごとのカテゴリに応じて4つに区分されています。
(1)兵卒(MANNSCHAFTEN)のキャリア
兵卒のキャリアコースは資格に関係なく、最下の階級から軍務に服したい志願者を対象としています。
標準的な任期は4年間で、入隊条件は義務教育を修了することでです(義務教育は通常15歳までですが入隊時は17歳である必要があります)。
原則として兵卒は管理職ではありません(部隊を率いることは稀)。
適性と必要性に応じて運転手、無線手、あるいは戦車や砲、工兵機器のオペレーターとして部隊に貢献します。
※兵役があった時代、徴集兵は兵卒として入隊していました。
※兵役があった時代も志願して兵卒から軍のキャリアを開始することができました(自主兵役=FWD)。現在でも任期制(SaZ)とは別に自主兵役という形で入隊することができます。
(2)下級下士官(UNTEROFFIZIERE)のキャリア
入隊条件は実科学校(Realschule)の卒業証書かそれ相当の教育レベルです。
任期は基本的に8年となります。
志願者がすでに連邦軍で通用する専門資格を持っている場合、UnteroffizierまたはStabsunteroffizierとしてキャリアを開始することが可能です。
専門資格を持たずに入隊した場合、連邦軍での勤務を通して民間職業で認められた資格を取得することができます。
(いずれの場合もいきなり実務を担うことはなく、まず候補生として基本的な軍事訓練を受ける必要があります)
下級下士官は様々な業務を担います。例えば本部職、修理要員、電子偵察要員、弾薬処理要員、空挺分隊の班長などです。
※このキャリアは正確には「一般専門職下級下士官(UNTEROFFIZIERE des Allgemeinen Fachdienstes)」と呼びます。専門技能を持つことが前提です。
※ちなみにキャリアカテゴリとしての「UNTEROFFIZIERE」と階級名としての「Unteroffizier」は紛らわしいので、この記事では前者を全大文字で、後者を小文字併用で書き分けています。
(3)軍曹(FELDWEBEL)(=上級下士官)のキャリア
軍曹のキャリアには適性と専門資格に応じて2つの形態があります。
・兵務職軍曹(FELDWEBEL des Truppendienst)
ここでいう兵務職(Truppendienst)は戦闘任務など、純粋な兵隊が担う職務のことを指します。
つまるところ兵務職軍曹は管理職(兵士の上官)として働く存在です。
部隊内で教官、教育者、部隊長としての任を担うのですが、これは若い年齢であっても大きな責任を負うことを意味します。
例えば戦車部隊では戦車とその乗組員を率いることもあれば、4両の戦車からなる戦車小隊を率いる場合もあります。
山岳部隊では10名の兵士からなる分隊を率い、軍事スキー、登山、山岳戦闘、山岳救助の教官も務めます。
入隊条件は基幹学校(Hauptschule)の卒業証書か実科学校(Realschule)の卒業証書、またはそれ相当の教育レベルです。
任期は通常12年となりますが、非任期制兵士(Berufssoldat)として働くことも希望できます。
・一般専門職軍曹(FELDWEBEL des Allgemeinen Fachdienstes)
一般専門職軍曹は高度な専門家としての責任を負います。UNTEROFFIZIEREの上位の存在です。
志願者がすでに専門訓練を受けていた場合、Unteroffizier、Stabsunteroffizier、Feldwebelからキャリアを開始することができます。
(※当然候補生として別途軍事訓練を受ける必要があります)
任期と入隊条件は兵務職軍曹と同じです。
※兵務職、一般専門職のほかに軍事専門職というカテゴリがあり医療下士官や軍楽隊下士官もいるのですが当然キャリアは異なります。
※UNTEROFFIZIEREとは「下士官」のことで、場合によってはFELDWEBELもUNTEROFIZIEREに含んで表記することもあります。ややこしいですね。
※上記のような場合は上級下士官(軍曹)を「UNTEROFFIZIERE mit portepee」、下級下士官「UNTEROFFIZIERE ohne portepee」と呼び分けたりします。ややこしいですね。
(4)士官(OFFIZIERE)のキャリア
ここで説明される士官のキャリアは正確には兵務職士官(OFFIZIERE des Truppendienst)のことです。
兵務職士官になるための入隊条件は原則的にアビトゥーア(大学進学資格)、高等専門学校(Fachhochschule)の入学資格、または同等の資格を持っていることです。
これだけでなく志願者は採用試験に合格する必要があります。
原則的に訓練中にハンブルクかミュンヘンにある連邦軍大学のどちらかで学位を取得する必要もあります。
士官候補課程では学科のほか様々な訓練を経て部隊長、教官、教育者としての職務に備えます。
士官の訓練はすべての兵科、軍種で実施され、実践的および理論的な要素を学びます。
各兵科共通の訓練に加え、兵科固有の訓練はそれぞれの訓練学校で行われ、主に任務に即した訓練が施されます。
士官の標準的な任期は13年ですが、非任期制兵士として働くことも希望できます。
※兵務職士官のほかに軍事専門職として医療士官、軍楽隊士官などもいますが当然キャリアは異なります。
いずれの場合も非任期制兵士は原則的に定年まで勤めますが、任期制兵士は満期で除隊し民間企業等に再就職します(これはどこの軍隊も同じことですが)。
徴兵期間を除き12年間任期を務めた兵士は別の公務員として転職できる制度もあるらしく、軍隊上がりの警察官という存在も珍しくないそう。
もちろん任期を最大25年まで延長することも可能です(定年は越えられませんが)。
この度の新階級導入は任期を延長したい兵卒のための、ある意味受け皿的な意図があるのだと思われます。
ここ数年で任期を延長したがる兵卒は増え続けているらしく、2015年の時点で兵卒の平均的任期は8年、今では15年以上の任期も珍しくないとのこと。
長い経験を積んだ優秀な兵卒を新しく制定した階級で切り分け、給与や年金を手厚くしようというわけですね。

4つのキャリアを簡単にまとめるとこんな感じになります(階級は下から上にかけて上位になります)。
各カテゴリの枠を超えて、例えば兵卒が下級下士官や軍曹にキャリア転向することもあります。
珍しいですが軍曹が士官を目指してキャリア転向を図ることもあるそうです。
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階級からは組織内の上限関係だけでなく役割や働き方を見てとることができます。
深く調べていくと面白い、奇妙な発見があるかもしれません。
Tschüs!!