2019年05月29日
掩体壕と塹壕
MVG2019に向けてのメモとして記します。
BWで運用されるKampfstand(戦闘用掩体壕)とKampfgraben (戦闘用塹壕)についてです。
(参考ZDv3/11)
上図は小火器運用のためのオープンタイプのKampfstand(戦闘用掩体壕)を示しています。
これは二人向けの掩体壕で一方向、あるいは複数の方向に対して武器を向けることが出来ます。
警戒用のAlarmposten(アラームポスト)などもそうですが、二人一組での行動が原則です。
(上側の図は断面図、中央の図は平面図、下側の図は俯瞰図と武器を向ける方向を示す)
掩体壕の深さは基本的に150cmで幅は60cmとなっています。
掩体壕の前後50cmは深さ20cmのEllenbogenauflage(肘置き)となっておりここで各種小火器を扱います。
MGを設置するためのピットはさらに前方に突き出しています。
Alarmposten(アラームポスト)もKampfstand(戦闘用掩体壕)として機能させることが出来ますので、こうした形をとったうえでMGを設置することもあります。
Panzerfaust用のKampfstand(戦闘用掩体壕)にはEllenbogenauflage(肘置き)はありません。
PzFstの射手はバックブラストを逃がすための空間をつくるため高めに立つ必要があります。
Unterschlupfは退避スペースで、一人か二人分ほどの安全を保障するものです。
木の板などで補強されており、コマンドポストとして使うことが出来ます。
上図に示すカバータイプの掩体壕は少なくとも40cmの厚みを持つ「屋根」で守られています。
野戦砲や迫撃砲の爆風・破片、化学兵器や核から身を守るためです。
………………………………………………………………………………………………………………
上図はKampfgraben (戦闘用塹壕)の平面図および各部断面図です。
戦闘用の塹壕はKampfstand(戦闘用掩体壕)とGraben(通路としての塹壕)、Unterschlupf(退避スペース)などから構成されています。
1がUnterschlupf(退避スペース)
2がKampfstand(戦闘用掩体壕)
3がEllenbogenauflage(肘置き)
4がoffener Graben(開かれた通路)
5がkleiner Unterstand (小さな避難スペース)
6がüberdeckter Kampfstand (カバータイプの戦闘用塹壕)
7がabgedeckter Graben (カバータイプの通路)
このようにオープンスペースとカバースペースを組み合わせて塹壕を構築していることが分かります。
また、塹壕構築において排水性の確保は大きな課題です。
排水溝をつくるか排水用の穴を設け、水を浸み込ませたり掬い出したりできるようにします。
これらの排水穴に木の枝などで格子を設ける場合もあります(つまずき防止?)。
随時追記の予定(?)
2019年05月09日
小隊編成メモ (Fahren, Funken, Feuern 2010)
◇ドイツ連邦軍の小隊編成の基本事項を考える
今回は書籍「Fahren, Funken, Feuern (2010)」の紹介を兼ねて、概要をつまみ食いで訳していこうと思います。
この「Fahren, Funken, Feuern」は小隊レベルの編成・運用の基礎を学ぶために、一般人が入手できるほとんど唯一の軍事書籍と言ってよいかと思います。
部隊編成から戦闘行動、指揮行動、任務の形態、訓練の原則について述べられたものであり、連邦軍で実際に運用される教本ではないものの、十分その実態に近づくことの出来る内容です。
ここでは3章「Einsatzkräfte」の項目から小隊の編成を見ていきましょう。
======================================
3章では「バリアント1」と「バリアント2」の2種類の小隊編成が挙げられています。
「バリアント1」は古典的で標準的な歩兵小隊(猟兵小隊)で、「バリアント2」はその弱点を補った改変型として示されています。
◇バリアント1 (古典的な歩兵小隊)
小隊の構成は「0/5/34/39」である。すなわち士官0名、下士官5名、兵卒34名の計39名からなっており、小隊長は下士官である。
小隊長が属しその指揮を助けるZugtrupp(ZgTrp)は「0/2/7/9」の構成で、3個ある分隊(Gruppe)の構成は「0/1/9/10」である。
小隊の人員は必要性に応じて増減する。
バリアント1における小隊と分隊の関係
ZgTrpは小隊長と副小隊長を中心として、運転手、狙撃手2名、衛生兵2名、工兵2名で構成される。Trupp(班)と呼ばれるもののGruppe(分隊)として扱われる(記号も分隊のもの)。
ZgTrpは戦闘部隊としては比較的弱いが、他の分隊を支援するには十分な火力を持つ。しかしながら予備兵力としては限定的な働きしかできない。
この場合のZgTrpは車両1台で移動可能である。
割り当てられる武装はStGwが7挺、拳銃が9挺、MGが1挺、ZFGwが2挺、GraPiが1挺、SigPiが1挺である。
バリアント1におけるZgTrpの構成
3個ある分隊は小隊の実働部隊である。通常は3個であるが例外的に2個、4個と増減する。2個分隊では限られた役割分担しかできず、4個分隊では指揮が混乱する恐れがある。
分隊はそれぞれ下士官の分隊長によって指揮される。
分隊は3個班(Trupp)に分けられる。1個は分隊長が指揮し、MGを伴った2名の兵士と運転手が属するMG-Truppである。もう1個は副分隊長が指揮し、兵士2名が属するPanzerabwehrtruppである。残る1個は班長と兵士2名が属するTrägertruppである。
MG-Trupp (Trupp 1)
分隊長は小隊長と連絡を取り合いながら自分の分隊を指揮する。自らの任務を妨げない限り直接戦闘に参加する(銃撃戦を行う)。
分隊の運転手は分隊の車両に一定の責任を持ち、整備や燃料補給、擬装などの面倒を見る。車両に留まる必要が無い場合は下車し戦闘に加わる。車両を扱う性質上分隊の無線手も担う。
分隊長と運転手を除くMG-Truppの2名の兵士のうち1名は機関銃手である(車載機関銃を含む)。もう1名は機関銃手の補佐として働く。
Trägertrupp (Trupp 2)
Trägertruppはその名の通り他の班のための弾薬を運搬する。同時にライフルマン部隊として機能する。
Panzerabwehrtrupp (Trupp 3)
対装甲戦闘部隊でありPzFst3を扱う。副分隊長が班長を兼任し、StGwとGraPiで戦闘に加わる。残る2名もライフルマンであるがPzFst3射手とその助手の関係でもある。
各分隊に割り当てられる武装はStGwが10挺、拳銃が10挺、MGが1挺、PzFstが2基、GraPiが1挺、SigPiが1挺である。
バリアント1における分隊の構成
※※※
分隊の構成は概して使用する車両の搭乗制限に依存すると言えます(人数だけでなく装備品の積載量も加味されます。これはつまり分隊の兵員輸送車として割り当てられるFuchsやMungo、Boxerが上記のような分隊編成を元に設計されているということでもあります)。
分隊の定員が10人ということでおそらくHS4(陸軍編成第4期:80~92年)がモデルとなっていると思いますが、これより後のHS5Nあたりで定員が9人に減少するのでしょう。現在でもBoxerが導入された分隊は10人編成のようです。
予備役RSUですと分隊長と副分隊長が士官で「2/3/7/12」編成という例があります。
◇バリアント2(弱体型歩兵小隊)
小隊の構成は「0/5/32/37」である。小隊全体では人員が減らされているが、ZgTrpの強化がなされている。
バリアント2における小隊と分隊の関係
ZgTrpは「0/2/11/13」の構成で、PzFstとMGにより高い火力を持っており、他分隊への支援能力が高められている。また人員・資材ともに各分隊の予備として機能させることができる。引き換えにZgTrpのために2台の車両が必要となり、(必然的に無線手も2名となるため)指揮系統も複雑化する。
割り当てられる武装はStGwが13挺、拳銃が13挺、MG(sw)が1挺、PzFstが1基、ZFGwが2挺、GraPiが1挺、SigPiが1挺である。
バリアント2におけるZgTrpの構成
3個ある分隊は「0/1/7/8」の構成で、人員が削減されているためZgTrpによる支援が必要となる。ZgTrpは7.62mm(sw)の機関銃を持つが分隊では5.56mm(leicht)の機関銃を持つ。加えて1基のPzFstを運用する。
分隊は2個の班(Trupp)に分かれるため指揮ははるかに簡単になる。また人員を2両の小型車両に分乗させることができる。
また人員減少とともに多能化(兼業化)の必要性が高くなっている。
各分隊に割り当てられる武装はStGwが8挺、拳銃が8挺、MG(leicht)が1挺、PzFstが1基、GraPiが1挺、SigPiが1挺である。
バリアント2における分隊の構成
※※※
ここでいう「2両の小型車両」というのはDingoやWolfを指しているのでしょう。以前取り上げた降下猟兵分隊がこの8人編成の分隊でした。
BWの編成・部隊についてはこれまでに「編成とか」カテゴリにて断片的にまとめていますのでご参照ください。
======================================
・通信
情報漏えいを防ぐため小隊間、分隊間の通信は明確に規定しなければいけない。
無線、携帯電話、衛星電話を含む通信手段は安全なネットワーク、または伝送手段を使用しなければならない。
通信には原則的に次の情報が含まれていなければならない。
>部隊の名称(Truppen-/Einheitsbezeichnungen)
>場所(Ortsangaben)
>時間(Zeitangaben)
>数値(Zahlenangaben)
また平易な言葉ではなくコードネームを定義しておく必要がある。
小隊長と各分隊長は同じ周波数で繋がっている。分隊長は他の分隊長と連携することができる。
分隊長と各班長は同じ周波数で繋がっている(小隊~分隊間の周波数とは異なる)。
このため分隊長は2個の無線機を持つ必要がある。
※※※
この図では車両搭載無線は含まれていないようです。車両も含めるともうてんやわんやですね。
通信については以前タッシェンカルテから内容を抽出したことがあるのでこちらも参考にどうぞ。
======================================
以上簡単な要約でした。
この章を起点として小隊・分隊戦闘の項目へ発展していくのですがそれはまた次回としたいと思います。
Tschüs!!
参考文献:
Ingo Werners 『Fahren, Funken, Feuern』 2010
今回は書籍「Fahren, Funken, Feuern (2010)」の紹介を兼ねて、概要をつまみ食いで訳していこうと思います。
この「Fahren, Funken, Feuern」は小隊レベルの編成・運用の基礎を学ぶために、一般人が入手できるほとんど唯一の軍事書籍と言ってよいかと思います。
部隊編成から戦闘行動、指揮行動、任務の形態、訓練の原則について述べられたものであり、連邦軍で実際に運用される教本ではないものの、十分その実態に近づくことの出来る内容です。
ここでは3章「Einsatzkräfte」の項目から小隊の編成を見ていきましょう。
======================================
3章では「バリアント1」と「バリアント2」の2種類の小隊編成が挙げられています。
「バリアント1」は古典的で標準的な歩兵小隊(猟兵小隊)で、「バリアント2」はその弱点を補った改変型として示されています。
◇バリアント1 (古典的な歩兵小隊)
小隊の構成は「0/5/34/39」である。すなわち士官0名、下士官5名、兵卒34名の計39名からなっており、小隊長は下士官である。
小隊長が属しその指揮を助けるZugtrupp(ZgTrp)は「0/2/7/9」の構成で、3個ある分隊(Gruppe)の構成は「0/1/9/10」である。
小隊の人員は必要性に応じて増減する。
バリアント1における小隊と分隊の関係
ZgTrpは小隊長と副小隊長を中心として、運転手、狙撃手2名、衛生兵2名、工兵2名で構成される。Trupp(班)と呼ばれるもののGruppe(分隊)として扱われる(記号も分隊のもの)。
ZgTrpは戦闘部隊としては比較的弱いが、他の分隊を支援するには十分な火力を持つ。しかしながら予備兵力としては限定的な働きしかできない。
この場合のZgTrpは車両1台で移動可能である。
割り当てられる武装はStGwが7挺、拳銃が9挺、MGが1挺、ZFGwが2挺、GraPiが1挺、SigPiが1挺である。
バリアント1におけるZgTrpの構成
3個ある分隊は小隊の実働部隊である。通常は3個であるが例外的に2個、4個と増減する。2個分隊では限られた役割分担しかできず、4個分隊では指揮が混乱する恐れがある。
分隊はそれぞれ下士官の分隊長によって指揮される。
分隊は3個班(Trupp)に分けられる。1個は分隊長が指揮し、MGを伴った2名の兵士と運転手が属するMG-Truppである。もう1個は副分隊長が指揮し、兵士2名が属するPanzerabwehrtruppである。残る1個は班長と兵士2名が属するTrägertruppである。
MG-Trupp (Trupp 1)
分隊長は小隊長と連絡を取り合いながら自分の分隊を指揮する。自らの任務を妨げない限り直接戦闘に参加する(銃撃戦を行う)。
分隊の運転手は分隊の車両に一定の責任を持ち、整備や燃料補給、擬装などの面倒を見る。車両に留まる必要が無い場合は下車し戦闘に加わる。車両を扱う性質上分隊の無線手も担う。
分隊長と運転手を除くMG-Truppの2名の兵士のうち1名は機関銃手である(車載機関銃を含む)。もう1名は機関銃手の補佐として働く。
Trägertrupp (Trupp 2)
Trägertruppはその名の通り他の班のための弾薬を運搬する。同時にライフルマン部隊として機能する。
Panzerabwehrtrupp (Trupp 3)
対装甲戦闘部隊でありPzFst3を扱う。副分隊長が班長を兼任し、StGwとGraPiで戦闘に加わる。残る2名もライフルマンであるがPzFst3射手とその助手の関係でもある。
各分隊に割り当てられる武装はStGwが10挺、拳銃が10挺、MGが1挺、PzFstが2基、GraPiが1挺、SigPiが1挺である。
バリアント1における分隊の構成
※※※
分隊の構成は概して使用する車両の搭乗制限に依存すると言えます(人数だけでなく装備品の積載量も加味されます。これはつまり分隊の兵員輸送車として割り当てられるFuchsやMungo、Boxerが上記のような分隊編成を元に設計されているということでもあります)。
分隊の定員が10人ということでおそらくHS4(陸軍編成第4期:80~92年)がモデルとなっていると思いますが、これより後のHS5Nあたりで定員が9人に減少するのでしょう。現在でもBoxerが導入された分隊は10人編成のようです。
予備役RSUですと分隊長と副分隊長が士官で「2/3/7/12」編成という例があります。
◇バリアント2(弱体型歩兵小隊)
小隊の構成は「0/5/32/37」である。小隊全体では人員が減らされているが、ZgTrpの強化がなされている。
バリアント2における小隊と分隊の関係
ZgTrpは「0/2/11/13」の構成で、PzFstとMGにより高い火力を持っており、他分隊への支援能力が高められている。また人員・資材ともに各分隊の予備として機能させることができる。引き換えにZgTrpのために2台の車両が必要となり、(必然的に無線手も2名となるため)指揮系統も複雑化する。
割り当てられる武装はStGwが13挺、拳銃が13挺、MG(sw)が1挺、PzFstが1基、ZFGwが2挺、GraPiが1挺、SigPiが1挺である。
バリアント2におけるZgTrpの構成
3個ある分隊は「0/1/7/8」の構成で、人員が削減されているためZgTrpによる支援が必要となる。ZgTrpは7.62mm(sw)の機関銃を持つが分隊では5.56mm(leicht)の機関銃を持つ。加えて1基のPzFstを運用する。
分隊は2個の班(Trupp)に分かれるため指揮ははるかに簡単になる。また人員を2両の小型車両に分乗させることができる。
また人員減少とともに多能化(兼業化)の必要性が高くなっている。
各分隊に割り当てられる武装はStGwが8挺、拳銃が8挺、MG(leicht)が1挺、PzFstが1基、GraPiが1挺、SigPiが1挺である。
バリアント2における分隊の構成
※※※
ここでいう「2両の小型車両」というのはDingoやWolfを指しているのでしょう。以前取り上げた降下猟兵分隊がこの8人編成の分隊でした。
BWの編成・部隊についてはこれまでに「編成とか」カテゴリにて断片的にまとめていますのでご参照ください。
======================================
・通信
情報漏えいを防ぐため小隊間、分隊間の通信は明確に規定しなければいけない。
無線、携帯電話、衛星電話を含む通信手段は安全なネットワーク、または伝送手段を使用しなければならない。
通信には原則的に次の情報が含まれていなければならない。
>部隊の名称(Truppen-/Einheitsbezeichnungen)
>場所(Ortsangaben)
>時間(Zeitangaben)
>数値(Zahlenangaben)
また平易な言葉ではなくコードネームを定義しておく必要がある。
小隊長と各分隊長は同じ周波数で繋がっている。分隊長は他の分隊長と連携することができる。
分隊長と各班長は同じ周波数で繋がっている(小隊~分隊間の周波数とは異なる)。
このため分隊長は2個の無線機を持つ必要がある。
※※※
この図では車両搭載無線は含まれていないようです。車両も含めるともうてんやわんやですね。
通信については以前タッシェンカルテから内容を抽出したことがあるのでこちらも参考にどうぞ。
======================================
以上簡単な要約でした。
この章を起点として小隊・分隊戦闘の項目へ発展していくのですがそれはまた次回としたいと思います。
Tschüs!!
参考文献:
Ingo Werners 『Fahren, Funken, Feuern』 2010
2019年05月05日
BW "TQ" Halter
今回はドイツ連邦軍で新たに使われるようになった止血帯ポーチについて。
メディック向けにMove Onなどと一緒に支給されているもののようです。
本品はコヨーテブラウンですが3FTDの使用例も見られますよね。
エラスティックはかぶせてあるだけでベルクロなどはありません。
「TQ」部分はパッチになっていますがその理由はよくわからない。
75Tacのような樹脂タブつきのパルステープで固定するタイプ。
使い勝手が良いとは思えないのですが特徴的ではありますね。
NSNの取得は2013年頃の様子。実際の支給は製造年と同じ2016年頃からじゃないかと。
「Trägersysteme Combat Application Tourniquet」の名で調達されているようです。
Proretaはブランド名?製造元?のように思えますが詳しいことははっきりしません。
それらしい会社はヒットするんですがこの商品そのものを確認できないんですよね。
Move Onに付けた様子。使用例だともうちょっときれいに収まっているような気もするんですが……
このホルダーが出てくるまでほとんどむき身で携行でしたから損傷・紛失防止という点では良さそう。
ただしエラスティックバンドは思いのほかキツめで、取り出しにちょっと手間取るような気はしますね。
使用例はマリから。マリ派遣チームに優先的に支給されているんでしょうか。
マリ派遣のMedEvacクルーから。ヘリクルーだと個人用に胸に1個付けてたりも。
Tschüs!!