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Posted by ミリタリーブログ at

2019年04月17日

EEH-BとFirst Responder


以前どこかで書いた記憶があるんですが、ドイツ連邦軍における応急処置の資格について簡単にまとめようと思います。


連邦軍における応急処置資格は大きく分類して2種類挙げられます(看護資格やレスキュー資格を除く)。

・Einsatzersthelfer(EEH)
・Combat First Responder(CFR)





◇EEH

EEHはEEH AとEEH Bに分けられ、後者はより高度な応急処置に従事します。

・Einsatzersthelfer A
EEH Aはすべての兵士に義務付けられている、Nicht-Sanitätspersonal(非医療従事者)のための資格です。
入隊後の基礎教練の際に30時間の訓練を受けることにより、CATやクイッククロットを使用した大量出血への応急処置、意識不明・呼吸不全に対する応急処置を習得します。
これらは個人用ファーストエイドキット(IFAK)の使用を前提とした、自身とバディのための応急処置です。鎮痛剤(モルヒネ)の投与も可能です。

・Einsatzersthelfer B
EEH Bも非医療従事者のための資格ですが、分隊のためにEEH Aより高度な救命措置をとることができます。
医療資格者が到着するまで出来る限りの応急処置を行います。その中には気胸の処置や静脈注射が含まれます。
このEEH B資格保持者が所謂メディックです。非公式にブラーヴォーズと呼ばれることも。



2015年 3./JgBtl291のEEH B資格保持者。パッチが貼ってあって分かりやすいです。





◇CFR

EEHに対しCFRは特殊部隊向けです。かといって必ずしも特殊部隊所属者に限られているわけではない様子。
またEEHは陸軍衛生救護軍(Sanitätsdienst Heer)のもとで指導を受けますが、CFRは特殊作戦訓練センターで訓練されます。
(ちなみにK9向けのK9-CFRという資格もありますがこちらはK9訓練センターの管轄です)

・Combat First Responder A
この資格はほとんどEEH Bに相当します。EGBは全員CFR Aを履修します。

・Combat First Responder B
さらに高度な資格です。支給品リストを見た様子ではEEH B、CFR Aより使える薬品類が増えるようです。

・Combat First Responder C
そのまたさらに高度な資格で、救急救命士に相当するという評価もあります(さすがに言い過ぎかと思いますが)。
特殊部隊のメディクといえばコレですね。
(さらに特殊部隊においては米国でD-Medic(18D)の訓練を受けるものもいます)



プフレンドルフ(=特殊作戦訓練センター)でのCFR講習の様子。







EEH BとCFR B/Cにはメディックバッグと資格に相当する医療機器・薬品が支給され、分隊(あるいはチーム)のメディックとして扱われます。


……………




というところまでが本題への導入なんですよ。

前回紹介したMove OnのEEH B向けパッキングリストが見つかったのでここで見てみましょう。
※パッキングリストなので支給リストとは異なります。
※第3医療連隊が提唱したものなのですべての部隊に適用できるものではありません。




上に示すのがMove Onのいわば「子亀」部分で12Lの容積を持ちます。
EEH Bにおいてはこの子亀さえあれば事足りるらしく、「親亀」に関する記述はありませんでした。
使用例的にも「子亀だけ」なんてのはざらにありますしね。親亀はむしろデイパックといった話も見受けられました。







その子亀を上画像のようにエリア分けします。エリアによって収納するアイテムの類別が異なってくるわけですね。
基本的にはABCDEの原則に準じます。すなわちA=Airway, B=Breathing, C=Circulation, D=Disability, E=Environmentです。


グループ1(Aキット/Bキット)
・アルコール脱脂綿 x1
・経口エアウェイ x1
・経鼻エアウェイ x1
・滅菌ジェル(Instillagel) x1
・チェストシール x2
・静脈留置カテーテル(Angiocath 14G) x3 (気胸用?)
・人工呼吸マスク x1
・ガーゼ x2

A/Bキットは「Airway, Breathing」の通り気道確保のためのキットです。




グループ2(Cキット)
・エマージェンシーバンデージ x2
・包帯 x2
・クイッククロットガーゼ x1
・Kerlixロール x2
・圧迫布 x1

Cキットは「Circulation」で循環器系、つまり止血のためのキットです。




グループ3(三角巾セット)
・輸液(リンゲル液500ml, HES製剤500ml) x1
・注入器 x1
・アルコール脱脂綿 x2
・静脈留置カテーテル(G18) x2
・駆血帯 x1
・手袋 x1
・カテーテル固定シール x3
・包帯 1.5m x2
・三方栓 x1

三角巾セットは静脈への輸液のためのセットで、その名の通り三角巾にくるまれています。
大量出血の際は輸血が必要ですが、一時的に輸液することによって出血性ショックを回避する、という運用かと思われます。




グループ4 F.A.S.T.1-System
・アルコール脱脂綿 x2
・三方栓 x1
・注射器 10ml x1
・F.A.S.T.1 x1
・塩化ナトリウム溶液 10ml x1
・注入チューブ x1

F.A.S.T.1はメディック向けの薬液注入システムです。
こちらは胸骨骨髄への輸液路を確保するためのものだとか。




グループ5
・火傷用包帯 x1
・サムスプリント x1
・三角巾 x3

グループ5は薄物アイテムでジッパーポケット内に収納されます。




グループ6(Dキット/Eキット)
・手袋 x3
・緊急毛布 x1
・ゴミ袋 x1
・薬液ストッカー x1
・廃棄容器(使用済みカテーテルなどの) x1
・ハサミ x1
・ライコプラスト(テープ) x1
・モルヒネオートインジェクター x1
・止血帯 x1

D=DisabilityはDamageと解釈されることもあります。グループ5のアイテムと合わせて骨折や火傷に対応します。鎮痛薬もここ。
E=Environmentのエリアには環境的要因からの保護として緊急毛布などが含まれます。
(Eには「Expose and Examine」という解釈もあり、分類するとすればここに衣類除去用のハサミが入ります)



グループ7(パックの外側)
・簡易担架 x1 →メッシュポケットに収納
・止血帯(CAT) x3 →MOLLE面に取り付け





実際の子亀の使用例と照合してみましょう。



空軍 EEH B, 2017

早速で申し訳ないのですが、EEH Bとはっきり分かる画像で都合のいいMove On運用画像が見つからなかったので、Medic Assault Packらしき例で代用します。特性がよく似ているので許して下さい……
比較的緊急性の高いエアウェイはパネル側に挿し込まれていることがほとんどです。
またパッキングリストですとエアウェイは中間サイズを1つ持っておけばよいといった感じですが、支給される一通りのサイズを携行しているように見えます。







3./JgBtl291, 2016

こちらは上で紹介したJgBtl291 3Kpの人と同一人物のようです。そしてこちらもMedic Assault Pack疑惑が……
パッキングリストとは異なりますがA、B、C~の原則に沿って収納されていることが分かりますね。
パネルに付いている黄色い容器は使用済みカテーテルなどを安全に捨てるための廃棄容器。






TdBW 2018 Appen

Medic Assault Pack祭りではあんまりなので、TdBW 2018からマルセイユ兵舎(あのエースから命名)の展示より。
こちらは空軍の士官候補生でEEH Bではないようです。ワッペンから第1医療連隊の関係かと思いますが詳細は不明。
こちらの兵舎には空軍の下士官学校と医療補給センターがあるのですが、ともなるとますます謎が深まるような気が……







2./FschJgRgt 26, 2019

FschJgRgt26のEGB中隊から。EGBなのでEEH Bということはないでしょう。CFR BかCのはず。
そうはいってもパッキングは似たような傾向にあるみたいです。








本筋からずれますが最近話題になった特殊部隊(KSK)のSanitätsspezialzug(SanSpezZg)について。


SanSpezZg KSK


2018年10月に新設されたKSKの救護部隊です。
この小隊は4個Gruppeから構成されています。これは各KdoKpにそれぞれ割り当てるためです。
そして各Gruppeは専門性の異なる3つのTruppから成り立っています。
各TruppにはRettungsassistant(※1)かNotfallsanitäter(※1)の訓練を受けた2名のFw(上級下士官)と、Einsatzsanitäter(※2)として1名のUOffz(下級下士官)が属しています。

※1:どちらもBW以外でも通用する公的な救急救命士の資格。
※2:この場合CFR-B/Cのことかと思います。

SanSpezZgは救急救命士が任務にあたるのでよりレベルの高い応急処置が可能ということです。
高度な人材ですのでここに医官を加えてLBAT(空中機動できる医療チーム)としての運用も可能。
ちなみに正規の特殊部隊員として訓練されるのは3名のうちのFw1名のみです。




Tschüs!!
  
タグ :EEH-BCFR-BCFR-C

Posted by Nekotin at 19:21Comments(0)考察

2019年04月14日

First Responder Move On : Tasmanian Tiger




Tasmanian Tiger - First Responder Move Onのカーキカラーです。
その名前の通りメディック用に設計された親亀・子亀タイプのバッグですね。

こちらで取り上げるのはNSNが付いたのBW官給モデルです。

さて今回はどんな仕様変更が……









この官給モデルはEEH-B、CFR-B、CFR-C(※)向けに中身の医療キットと共に支給されます。
支給開始は2016年頃のようですが、一般販売モデルもそれ以前からよく用いられていました。


※:メディックのカテゴリ。ざっくりいうとEEH-Bはいわば普通のメディック。CFR-Bは特殊部隊向けで、CFR-Cはその上位資格。







一般販売モデルとの大きな違いはここ。子亀上面の「BUND」マーキング。例に漏れずといった感じ。








親亀下面にも同様のマーキング。徹底していますね。







レインカバーも付属。ランドセル的アトモスフィアを感じます。







子亀を外した状態の親亀です。28Lの大容量を誇ります。







裏面の様子。ショルダーストラップは随分とこだわった造り。







お腹バンドはベルクロ式で着脱可能。







下面のジップを開くとドラッグハンドルが出現。







念のため、みたいな感覚で付いているファステックス。
ジッパーが壊れたときのための冗長性付加でしょうか。








ジッパーをぐるっと開けるとこんな空間が現れます。キャリーケースに近い感覚です。







付属品の仕切りを付加した様子です。







フタ側には細々した物を入れるポケットとパネル用のベルクロが。







医療品を保持するためのパネルは2種類附属していました。







フタ内側両サイドのジッパーを開くとこう。何かのホルダー。







フタを閉めるジッパーは片側が破損? かとおもいましたが誤操作防止であえてこうしたのかも。







子亀側は12Lの容積をもっています。EEH-B隊員なら子亀側だけでも十分だそうです。
というのもMove Onの合計容積40LはCFR-Cのキットを想定しているためだそうな(※)。


※:CFR-B/CキットはEEH-Bキットより薬品類が多く含まれており、扱える医療器具も多くなります。







ショルダーストラップは簡素ですが一応お腹ベルトも付きます。
メッシュはポケット状になっており幅広のアイテムを収納可能。








中の様子。パネルや小分けポーチの配置が前提となっています。







付属のポーチ&パネルを配置した一例。見た目ほど物が詰まっているわけではなさそう。

パッキングの例はまた別の機会に紹介したいと思います。










使用の様子



(Photo: Bundeswehr)

海軍の医療部隊から。「BUND」マーキングがはっきり見てとれます。
右の人はStabsarzt=軍医の方。軍医としては一番下の大尉に相当します。
右に写っているのは旧来のメディックバッグで6面展開するタイプですね。









(Photo: Bundeswehr)

Cobra Strike 2017という演習に参加した医療部隊。こちらも官給版であることが分かります。







(Photo: Bundeswehr)

FschJgRgt26の第9中隊から。辛うじて官給版であると判断できます。
角度によっては一般販売版のMove Onと識別できないのが厳しい。





目立つ違いがあるだけに一般販売版との使い分けが生じてしまうあたりが大変。
Kampfretterなんかは16年以前から一般販売版が支給されているみたいですし。

BWの律儀な仕様変更はマニア的に「アツい」部分もあるんですが、
民生品で代用できないので集めるとなると厳しい目に合うことに。

「BUND」の御紋をありがたがるのも考え物ですね……





Tschüs!!